F-1 職人さんとその状況【現実を知って、対策を練る】

F 職人・手仕事

今回は身の回りの職人さんを取り上げます。
職人仕事は成り手不足を含めて厳しい状況。
しかし今でも、腕がつけばどこでもやっていける仕事
騙されないよう気をつけることで自分の仕事を世の中に出していくこともできます。

職人仕事なんて、きついし将来がないしと思う読者さんがほとんどでしょう。
実際にその側面もあります。
職人仕事やものづくりに興味があっても、二の足をふむことでしょう。
しかし職人仕事の現実や状況と気をつけること等を知っていれば、気持ちの整理も少しは付きませんか。

私は東京と長野県で活動しており、建築設計事務所を運営しています。
学校ではなく仕事で建築を学んだ独学の建築家。
長野県で建築教室の主宰や空き家再生や地域デザインのこともしています。
奈良井という宿場町で、土-とおいち- という職人や作家さんの作品を扱うお店の運営もしています。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。

この記事では、知人の大工棟梁、引退した木工職人、木曽平沢の漆職人の事例を紹介。

腕と仕事
時代で無くなる仕事
職人仕事の不遇と打開策

ものづくりの世界に興味があるけどまだ決心の付いていない読者さん。
まずはどういった世界なのかを文字ベースで知って判断材料にして下さい。
工芸品やクラフト品が好きな方々は、物の裏側にある状況を知れる内容になってます。
実際に仕事を始めて間もない人は、こんな人達には気をつけましょう、を紹介。

私自身も建築の仕事をしながら、職人さんに教えを請いものづくりもしています。
建築とは異なり自分の腕だけで完結できる領域もあり、魅力的な世界です。
しかし真面目にものづくりをしている職人さんほど製作に時間を取られるので、対外的なアピールをする暇がありません。
そのあたりを解決しないと、都合よく扱われるだけの職業になってしまいます。

大工さんと腕

最近友人の大工さんと話をしていたら、プレカット材が手に入らんよー、と言ってました。
2021年ウッドショックのニュースが世間を騒がせていた時期。
プレカット材とは予め長さや接合部の加工が施され、現場で組み立てるだけの状態にした材。
最近は国内材を使うことも増えてきていますが、輸入材を使用することも多いです。
住宅流通量の多いハウスメーカーさんや工務店さんの多くがプレカット材を使用します。
量産するにはプレカットの方がコストも安く済みます。
製作時間も短縮できるので、住宅流通木材の多くにプレカットが施されています。

ウッドショックと言われて建築木材価格が上がっているのは、いろいろな要因があります。
そのなかでプレカット工場へ材が納品されないことも一つの原因。
流通量が少なくなれば、値段が上がる仕方のない経済原則。

プレカットは主流なのですが、一方でまだ自ら刻んで加工を施す大工さんもいます。
反面プレカット材が広く流通しているので、自分で刻みのできない若い大工さんもいます。
先ほどの大工さんの話しに戻ります。
私はその大工さんならプレカット材が手に入らなくても問題ないだろうと思いました。
近場に県産材の製材工場(プレカット工場ではない)があるのと、その大工さん自身に手加工の技術が十分あるから。
私:「別に問題無いんじゃないですか?***木材(先述の製材工場)で材入れて、自分で構造材を刻めばいいじゃないですか。」
大工さん:「そうしたよ。」
住宅規模だから可能だったのでしょうが、腕が身を救います。

以前この大工さんには中庭にかける小さな屋根を、金物を殆ど使わずに工事してもらいました。
金物を使って接合したほうが手間は掛らないので、最初は面倒くさがってやろうとしてくれませんでしたが。
後で話をきくと、最近ではそうした仕事を頼まれることも少ない様子。
大工さん達の一部は、腕の見せ所が少ないのが現状。
それでもやり始めると、その大工さんは良い腕で組んでくれました。
途中で息子さんも連れてきて、刻みや加工のことを教えてました。
腕が良かったので、その後は色々と相談するような間柄に。
見てくれる人はしっかり見ています。
長い時間の中で獲得した腕は、必ず役立ちます。
その振るいどころと機会を得る工夫を、現代は求められてます。
これからの職人さんは、求められる場所の分析能力を伸ばしましょう。

すし屋のカウンター職人

千葉県にある飲食店の内装設計とデザインをお願いされ、2021年開店。
コロナの時期に飲食店を開業するとは勇気があるなと思いますが、空きが多い時ならよい場所が見つけやすいのかもしれません。
日本食のお店なのですが、カウンターを桧柾の無垢材でと要望が。
奥行き450mm×長さ3700×厚35mm。
製材・加工してこの大きさの一枚ものを仕入れるのは、かなり大変。
その材をカウンターに仕上げてくれる職人さんを探すのも一苦労です。
本当に幸運の連続で、カウンターは納品されました。
活動の拠点がある長野県塩尻市木曽平沢の、製材所(大共木材)から材は調達。
カウンターに仕上げる職人さんも、その製材所さんから紹介してもらえました。

すし屋さんのカウンターに桧の一枚ものが使われていた時代、よく仕事を請けていた職人さん。
今は引退してましたが、無理を言って仕上げてもらいました。

かなりの長尺ですが、狂い無く接いで綺麗な一枚板に仕上げてくれました。
もう引退しているからと、表にでようとされませんでしたが。
この時は本当に幸運の連続でしたが、材を加工できる職人を探すのは大変です。
今の時代、カウンターを桧柾で綺麗に仕上げる需要も多くありません。
左官職人も、壁紙や新建材外装が広まったときに数を大きく減らしました。
職人仕事は広く浅くよりは狭く深くで修行が進みます。
しかし、あまりに狭い領域だけで腕を発揮しないように。
需要の浮き沈みに影響されない準備も必要です。
極端に特化するときは、その場所・地域世界のオンリーワンやナンバーワンを目指しましょう。
修行もそうした人につくのがベスト。
どんな衰退産業の分野にも、一流を求める場所やお客さんは必ずいます。

職人さんの不遇

職人仕事は、なかなか陽のあたらない世界になっています。
私が関っている木曽平沢漆職人さんを例に説明します。

現状です。
都市圏のお店や大学卒の漆作家の黒子になり、職人さん自体に光があたらない。
腕があるのに、経済や名誉に参加できないのです。

近くで現場を見てきた経験から、カラクリを解説します。
誤解しないで読んでもらいたいのは、そうした人達もいる、ことで全てではないこと。

大学で漆を学んだ人達には職人のような腕はないし、修行の時間をとることも多くはしません。
そこで途中工程を職人さんに外注します。
また職人さんから必要な技術だけを聞いて、加飾や仕上げで自分の表現にします。
それを発表すれば、技術もろとも作家の成果になるカラクリです。

職人さんは僅かな工賃と、世に名前がでることなく終ります。

経歴作りと技術搾取の一環や安い労働力として、職人さんたちは利用されます。
経歴作りというのは、自分がその地域に出入りして活動していますよというアピールのため。
実際はその地域での活動など殆どしてなく、仕事の利益になりそうな時だけ町を訪れたりします。
東京などの大きな大学からくる作家さん地方では優遇されやすく、テイクできることが多いのです。

作家自身に依頼のあった修理仕事や数モノ仕事を、職人さんへ孫請に出す作家さんもいます。
下ごしらえを職人にお願いするのですが、職人さんは相当安い金額で請けます。
そこから得た知識を作家本人が考案したように説明をする人もいます。
職人さんの安い工賃と豊富な技術が、ピンハネに利用されるのです。

腕や商売には競争原理が働くことは当然なのですが、何が問題かというと地方の素朴で堅気な職人さん達は発表や発言の力が弱いこと。
まったく勝負にならない力関係です。
彼、彼女達に発信力があれば自分達を都合よく利用する人達を公のもと不当性を問いかけることができます。
けれどSNSなどを使いこなす能力は高くありません。
***大学出身で作家仲間も多い、付き合いのあるギャラリーからの発信力もある、SNSで幅広い発言ができる作家。
一方で地方の小さな町で良い物をもくもくと作っている、ときどき愚痴をこぼす程度のことしかできない職人。
どちらの声が大きくて、世の中に届きやすく信用されやすか。
残念ながら、こうした現実をここ10年ほどみる機会が増えてきました。

職人さんはまじめな方々が多いです。
不当な扱いに怒りも覚えていますが、同時に付き合いのある人間に裏切られたとき心から悲しみます。
こうした不遇な扱いが多い中で、あえて後継者をつくらない職人さんも沢山います。
職人さんたちの名前や発言がもっと世の中にでるようにしなければ、対等な力関係を構築できなければ、良い腕が裏切りと悲しみの中でますます減っていきます。
これから職人仕事やものづくりに関わろうとする読者さんは、こうした人達とは気をつけて付き合いましょう。
同時に自らの発言力を持てるようにして、守りも固めてください。

これからの職人

これから状況がよくなる職業かと問われれば、難しいと私個人は思えます。
しかし腕があれば必要とされ、成り手も少ない現代であれば高い単価も狙えます。
同時に腕だけでは陽の目をみないことも事実。

・腕を発揮できる場所と人をみつける
・腕を活かす領域を極端に特化させない
・極端に特化するときはオンリーワンとナンバーワン
・アカデミーや腕のない作家とは気をつけて付合う
・発信力・発言力をつける

こうしたことを意識して取り組みましょう。

反対に、成り手ではない私達にできること。

・腕を提供した職人さんの名前をだす
・腕の正当な対価を提供する
・その技術までも自らの作品のように扱わない
・職人さん達の発表や知ってもらう機会をつくる

皆さんにも、少し心がけてもらえると嬉しいです。

派手さは少ないですが、腕の良い職人さんがする仕事って本当に素晴らしいものが多いです。

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