D-2 住いを建てるまで【業者選定と業界事情】

D 住いと知識

住いの建て方は様々。
まずは業種ごとに、どういった違いがあるのかを知ってみましょう。
もし建築家を入れて実現することを検討しているときは、建築設計事務所の実情を知ることも重要。
どんな選択にもメリットとデメリットがあります。
それを知ることが大切です。

新しく住いを建てようとする方々が、この記事の想定読者さん。
家を建てる会社や個人は様々。
結局どこにお願いするのが一番よいのか悩むことも多いでしょう。
その理由は比較検討ができないからです。
それぞれの業界でメリットとデメリットがあります。
金額差ができる特有の事情もあります。
それらを知って比較ができれば、迷いも無くなっていきます。

私は仕事で建築を覚えた、独学系の建築家です。
修行先の上海から帰国後にライセンスを得て、現在は設計事務所を主宰しています。
東京と長野県で活動しており、空き家再生や地域デザインのこともしています。
長野県塩尻市と松本市で”誰でもできる建築教室”という一般者向けの教室も主宰。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。

この記事では以下の内容を紹介。

・住いつくりに関る業者選び
・建築設計事務所の特徴
・設計と施工の関係
・これからの住宅

住いを建てる手段を決定することを助ける内容の記事にしています。
繰り返しになりますが、どの手段にもデメリットとデメリットがあります。
あまり表に出てこない業界内の事情もあります。
それらを知っておかないと、後悔の多い住いつくりになっていきます。
家づくりの迷いを、少しは取り除ける情報をお届けしてます。

私自身はアトリエ系と呼ばれる建築設計事務所で建築を学び、現在は自らの事務所を運営しています。
そうした立場でその他の業種に関しても記事にしている前提を知って、記事を読んで下さい。

住宅業者の違いを知る

住いつくりを依頼できる業者も様々。

・ハウスメーカー
メリット
住宅をショールーム等で見学し、事前確認ができる。
セミオーダーなども対応。
商品住宅なので品質が一定。
断熱や耐震性など規格化され、大きな瑕疵は発生しない。
デメリット
商品化と規格化が徹底し、拾いきれる要望に限度がある。
多くの人件費と営業・広告費が販売価格に反映され高額になる。

・工務店
工事だけを請け負う、下請けの工務店とは区別してます。
メリット
商品住宅もあり、ハウスメーカーよりカスタムの自由度は高い。
地域密着の工務店は信用第一なので、仕事が丁寧になる可能性が高い。
ハウスメーカーより人件費と営業・広告費が小規模なので、費用は安くできる。
デメリット
ハウスメーカーより最新の技術や工法の採用・独自の技術開発力に劣るため、スペックに限度がある。
各工務店による品質差のばらつきが大きい。

・大工さん(棟梁)
木造住宅であれば、大工さん本人で設計し工事する人もいます。
メリット
ハウスメーカー・工務店に比べて圧倒的に低コスト。
工事中でも様々な変更に対応してくれる。
デメリット
施主の意見を聞かない、頑固大工もいる。
最新の設備や工法に疎い人が多い。
設計とデザインは苦手。

・建築設計事務所+施工業者
メリット
商品化・規格化せずに自由な設計に対応してくれる。
デザインに強い。
設計と施工が分離しているので、チェック機能が最も高い。
設計段階で様々な検討ができる。
デメリット
設計・設計監理費用が発生する。
事務所による品質差のばらつきが大きい。
設計・検討過程があるので、時間がかかる。

ハウスメーカーと工務店はまとめサイトが多くあります。
一括で資料請求したほうが時短。
工務店は建設地周辺で探すのを個人的には薦めます。
地元の目があるので、下手な仕事をしない確立が高くなります。

大工と建築家は個人の特徴が出すぎるので、一人ひとりじっくり調べて下さい。

”住い”と建築設計事務所

建築設計は基本的にオートクチュール・オーダーメイドの世界。
様々な設計事務所が存在しますが、商品のように規格化された方法で設計する事務所は少数。
私が修行時代を過ごしたアトリエ系と呼ばれる事務所では、所長の価値観が建築に大きく反映されます。
設計事務所に応じたデザインメッソドやデザインコードなどが存在するときはあります。

その中で発注者は多種多様な住宅の要望ができます。
工事をする業者や個人は、別途建築家が見極めていきます。
その人たちを監理して、住いを実現します。

建築設計事務所に住宅設計を依頼すると、設計担当者がつきます。
担当者の手際が悪いと不安に思う読者さんも多いはず。
判断材料の一つになればと思うので、事務所事情に関して説明します。

事務所や担当者の内情を少し知っておけば、建築設計事務所との対応も上手くできるから。

担当者とはプロジェクト全体をみつつ、お施主さんとの窓口になる人。
人を雇っていない個人事務所であれば、もちろん所長本人が担当者。
キャリアのある所員を抱えた設計事務所になると、住宅規模の担当者は若い(経験の浅い)人が行うのが通例。

理由は二点。
当然なのですが、お施主さんのため。
ベテランほど規模の大きな案件(設計料の高い仕事)を複数こなします。
例えばそうした人がさらに住宅(設計料の低い仕事)の案件を抱えるとします。
事務所としては大きいプロジェクトを優先するので、住宅のお施主さんとじっくりと向き合える時間が確保できません。
複数の所員を抱えた事務所内で、最もプロジェクトを持っていないのが新人
つまり一番時間も使えて体力のある人です。

もう一つは所員育成。
住宅規模なら、新人担当者でも初めから最後まで十分責任をもてます。
お施主さんとのやり取りから始まり、建築が出来上がるまで一通りを経験できます。
所長や上司としては、一連の流れで建築設計実務を責任もってやり遂げてほしいのです。

ここでもメリットとデメリットを確認して下さい。
・メリット
実務を始めて間もない頃のプロジェクトは、力の加減がわからずとにかく全力投球する人が多いです。
建築家として自分の設計を試したいエゴもありますが、お施主さんの要望にこたえるためにも必死に取り組みます。
お施主さんの夢と新米建築家の夢が、途方もない熱量で実現していきます。
私も上海修行時代の初担当仕事は、すごい熱量で仕事をしました。
初めの担当は1,500㎡前後の内装設計。
この案件のみに集中させられました。
技量がなかったからこそ、あの熱量は体力を考えても今再現はできません。

・デメリット
経験が少ないので右往左往します。
例えば、皆さんがある要望をだしたとしましょう。
よく分からないのに適当に答えることが多々あります。
会社や事務所に戻ってから見当違いな回答をしていることを上から指摘され、お施主さんに前言撤回する。
もしくは後々それが発覚して、進んでいた工程が台無しに。
このような事態がよく起こります。
本人も担当者として責任感もってやっているので、その場で解決しようと一所懸命。
しかし技量が追いついていません。
当然、お施主さんは不安に思います。

デメリットだけをみると、若い担当者は嫌だなときっと思うはずです。
事務所を運営している人やベテラン上司は、経験のない担当者を自らも経験しています。
なので、肝心なところはその若手をしっかりサポートします。
技術面に関しても同様。
最終的な技術的判断はひよっこには無理。
上司や外部協力事務所が最終判断しているのでご安心を。

もし読者さんの誰かが不安の限界に達したときは、所長もしくは上司自ら出向いてもらうように依頼しましょう。
こんなことも出来なかったのか!!、と担当者は上から絞られますが誰しも経験すること。
遠慮なく伝えましょう。

設計と施工の関係を知る

建築物ができる過程はいくつかあります。
そのなかで、設計施工分離設計施工一括について説明。
簡単に言えば、設計と工事・製作を同じ業者で担当するのかしないのか。

住宅を例に言えば、ハウスメーカー・工務店は設計施工一括。
ハウスメーカーは販売までするので、全ての工程をおさえています。
建築設計事務所+施工業者は設計施工分離。

私の事務所経験から、分離のメリットに関して解説。
それには建築家の役割を理解する必要があります。
一括のメリットは、その立場で紹介しているブログ等で確認して下さい。

皆さんは建築家にどのような印象をお持ちでしょう。
美術・芸術的な側面、また社会性や独自性を建築に付与してくれる存在でしょうか。
私もその側面はとても大事だと感じています。
その要素は大きいのですが、じつはお施主さん(発注者、お客さん)の代弁者・代理人としての役割があります。
住いができるまでに、一番金額を操作しやすい部分は施工と販売部分です。
設計費は総費用のうちごく一部のため、金額的な遊びは僅か。
この工事・販売部分を故意に悪用しようとした際の防波堤が、建築家(施工と分離した設計者)。

お施主さんは、設計や工事に関する知識は通常持っていません。
金額相場も分からないことがほとんど。
設計と施工が同じ場合、工事費用を意図的に安くするための提案が可能になります。
安くなるなら良いじゃないか、と思う読者さんもいるでしょう。
問題とされるのは皆さんに還元するためではなく、工事・販売する側へ還元するため安くするケース。
****な印象を与えるために****なんて良いとおもいますよ。
****を実現するのであれば****の工法を採用しましょう。
こんな話しを聞いても、知識の無い人は判断できません。
ハウスメーカーのように販売価格まで決められた状態では、何にいくら費用がかかっているのか知る機会もありません。

皆さんは、知らないこと・難しいことはプロに任せようという心理になることはありませんか。
それを故意に悪用する人達もいるのです。

契約した金額の中で、工事費用を安く抑えるほど利益が増えます。
発注者に気付かれず、手抜き工事をしたり仕様のグレードを下げれば利益が多くなるカラクリ。
建築設計事務所の仕事は設計やデザインを担保することです。
施工業者が設計内容や品質を勝手に変更することを許しません。
色々理屈をつけても、知識があるので工事側の都合で言っているのか判断できます。
建築家は決定した設計やデザイン・印象を、工事側のプロとやり取りできない発注者の代理人になり担保します。
設計・施工が一括になると、このチェック機能がはたらきません。
大きなプロジェクトで設計・施工一括工事の場合は、コンストラクションマネジャーが施主の代理人として保護者になるケースもあります。

施工側も設計が勝手なことをしないように、施主を守っています。
建築家は施工技術の専門家ではありません。
技術的な裏付けが未熟のまま施工者に色々と提案し、彼らをイライラさせることも。
そんな設計では危険だよ、工事できないよ、といった助言をして不良な建築物にならないようにします。
工事技術の側面から、欠陥のない建築になるようお施主さんを保護します。
設計と施工の分離は、相互に好き勝手なことをさせない工夫なのです。

設計と施工がセットでは無いほうが、悪意の入り込む余地は少ない。
これが結論です。

補足
近頃はお施主さんのセルフビルドを手伝う建築家も多くなっています。
工事費用を安くすることもできますが、少しだけご注意を。
建築家が多くの時間を費やしているのは、建築設計とデザイン。
建築家はプロフェッショナルとして品質を保証できる工事技術は持っていません。
品質を保証できないような事態も起きなくは無いでの、その認識を持ったうえでご決断を。
個人的には、部分的に取り入れるスタンスが適切かなという印象。
私は設計以外にリノベ不動産と店舗(土-とおいち-)事業もしていますが、自分の責任物件のときはセルフビルドもしてます。

住宅のニュータイプ

これからはもっと様々な方法で住いを実現する方法が出てくるでしょう。
3Dプリンターの家など、最近では代表的です。
そんな中でイーロン・マスクの住まいが、昔の技術ですがプレファブ住宅というニュースを目にしました。

イーロンのプレファブ住宅は米国の会社(BOXABL社)が開発している、折りたたみ式の住宅。
BOXABL社の概要を確認します。
広さは375sq ftなので、大凡35平米
20畳弱ですね。
天井高さは9ft6、約2050mm
少し低い印象。
日本だと2400mm前後が標準です。
それでも日本のワンルームよりはずっと広くて、設備も充実。
価格は500万円程度
恐らくコンテナに積めるよう設計しているはずなので、輸送コストを入れてもそれなりに安価で入手はできそうです。

やはり折りたたみ式、が売りだろうと思います。
極力現地で組み立てずに小さく薄くする(輸送しやすく、スットクスペースを小さくする)、とこの解決方法でしょう。
結構色々とかゆいところに気を使っています。
内部の車椅子動線にも配慮。
出入り口の段差解消までは説明がなく、そこはどうするのかなとは思いましたが。
スタック(積み重ね)や平面上での接続も想定しているようなので、レゴみたいにデザインをすることは可能。
日本のように地震が頻発する国だと、ちょっと積み上げには気を使いそうです。
1、2人で住むには最低限の機能はあります。
勝手な想像ですがイーロン・マスクように世界中飛び回っている人には、こうした簡素な仮住いのほうが合理的なのかもしれません。

住宅と輸送のことを考えると、石山修武さん(1944~)を連想します。
何故かというと、住宅と流通の妙を教えてくれた本を読んだことがあるから。
石山さんは若い頃、アメリカから住宅部材一式をコンテナで輸入した経験があります。
当時の私は、建築家は設計やデザインをし建築を実現するのが当たり前と思ってました。
しかし建築家ってこういう活動もあるのかと新鮮でした。
その話のなかで当時のアメリカから日本への輸送費よりも、東京から新潟への輸送費のほうが高いと言うのです。
距離と経済が一致していないと。
技術の集約(船舶によるコンテナの大量輸送)が距離と経済の関係を無意味にしている。
この洞察自体も面白かったですが、今のネット社会をそのまま予見していた様ですごいですね。
例えば先の3Dプリンターの家なら、遠く離れた国でもデータを送信し現地のプリンターが工事すれば、輸送費など気にしなくてもよいのです。
石山さんの読物は時に建築家のムズカシイ言葉が一杯ですが、建築以外の人でも楽しめる内容がたくさんあるのでお薦め。

商品住宅を検討しているときは、流通の状況にもアンテナをはっているとよいと思います。
新しいタイプのプレファブ住宅がこれからできてくると、流通を含めて面白い提案や購入方法が生まれそうです。
商品住宅でおさえておきたいのは、リセールバリュー
日本の商品住宅のほとんどはリセールバリューが無いので、そのことも知って下さい。

自分にあった住い計画

家づくりにおいて世の中で広く知られている、ハウスメーカー・工務店・大工・建築設計事務所、に関して説明しました。
長い記事になりましたが伝えたっかたのは、知った上で選択しよう、です。
良いところ悪いところ、両面あります。
まずは知りましょう。

個人的には、設計と施工が分離して実現できる住いを選択してほしいところ。
住宅はチェック機能なく済ませられる対象では、本来ありません。

後半で紹介したような、ニュータイプの住宅も個人的にはお薦めします。
商品住宅のなかでも、リセールバリューが期待できそうだからです。

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