今回は鉄鋼材に関する基礎編を記事にします。
DIYの加工技術などを説明する内容ではなく、まずは何を知っておくべきかなどを紹介。
自分でリノベーションなどをするとき、基本的には木材など扱いやすい素材を選ぶことが多いと思います。
それでもちょっと素敵なスチール脚の家具でもみたとき、自分でもできたらなぁ、と思うこともあるでしょう。
私は東京と長野県で活動しており、建築設計事務所を運営しています。
学校ではなく仕事で建築を学んだ独学の建築家。
長野県で空き家再生や地域デザインのこともしています。
オフィス機能は両方に用意していますが、住いは長野県。
活動圏内である、塩尻市と松本市で”誰でもできる建築教室”を月2回定期開催しています。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。
今回の記事は、建築教室の生徒さんがスチール脚と無垢天板を組み合わせた机を設計したので、それを例に説明していきます。
鉄鋼材の加工は簡単ではありません。
専用の道具類や工具類も高価なものが多いです。
それでも、設計やデザイン検討は素人でも十分可能です。
それらの図面・スケッチ・模型などを近所の鉄工所へ持って相談すれば、安く思い描いた部材を揃えられますよ。
この記事は、建築教室内での生徒さんを例に話を進めています。
全く建築に関わりのない方々ばかりの生徒さん達ができることなので、読者さんにも十分応用可能な内容です。
規格材を知る
先ず鋼材には決まった種類の形と規格がある、それを知ることから。
鋼材 規格 とでも検索すれば形や規格寸法などは直ぐに調べられます。
理由は何かスチール製のものを造るときは、それらの部材を組み合わせて製作するのが一般的だからです。
あとは加工の問題で、曲げ・穿孔・打ち抜き・カットなどで変形しますが、ベースは規格の形を用います。
例えば棒材を曲げればハンガーのフック、それを板材に溶接すれば壁付きのコートハンガーの出来上がり、といった感じです。
薄い平の板材を叩いていけば、器のようなR型の造形にもできます。
これは鍛金という加工です。
要するに、規格材と加工の組み合わせで様々な部材がつくれるということ。
スチール部材の接合は大別すると2種類。
溶接とボルト(ネジ)接合。
とてもシンプルな原則で、一言で説明すれば下記になります。
規格品の部材を利用して加工を施し、部材同士を接合し組み合わせる。
加工が自身で出来なくとも、図面で設計しておけば近所の鉄工所で製作してもらえます。
必ずとは言い切れませんが、街中の鉄工所さんは個人客でも対応してくれます。
随分若い頃に私も自前のスチール家具がほしくてデザインしました。
加工は近場の小さな工場が、快く引き受けてくれました。
いつか鋼材の加工編も記事に出来ればと思いますが、扱う道具や技術面で難易度が高く現在までのところチャレンジした生徒さんはいません。
溶接不良など目視での確認が難しいので、素人にはハイレベルなDIY。
ボルト接合のみで成立できる、家具程度ならやれるかな、が個人的な感想。
前述の方法が一般的で汎用性がありますが、そのほかの原理でつくる方法もあります。
3Dプリンターなどはよい例です。
立体データをつくれば、プリンターが金属素材を積層して形にしてくれます。
NC旋盤という機器をつかえば、立体データから金属の塊を好きな形に削りだします。
昔からある方法で、鋳物もあります。
鋳型をつくりその中に融解した鉄を流し込む方法。
脱型の検討は必要なりますが、彫刻のように自由な形が造れます。
但し型代が高くつくため、素人のDIYでおこなう機会は少ないです。
これらの方法は規格材と加工と接合の組み合わせではなく、形自体から考えられるので造形の自由度は高いです。
その代わり、特殊な機材や型が必要になるので高価になります。
ちなみに鋳鉄の特徴として、硬いけれどもろい(粘りがすくない)があげられます。
家具程度ならそこまで神経質に考えなくてもよいことですが、建築のように挙動が大きなるスケールになるとよく検討しなければならない性質。
山本理顕設計工場の設計したナミックステクノコア、たしか構造体である逆円錐の先端が鋳鉄製だったと記憶しています。
山本理顕さん(1945~)は、私の上海時代の事務所所長が修行した設計事務所を主宰している建築家。
規格鋼材色々
ネットで規格寸法などは調べられるので、代表的な鋼材の種類を少し紹介。
・山形鋼(等辺、不等辺あり)。
断面形状がL形なので、通称Lアングル。
St-L-長さ×長さ×厚と表記したりします。
例えば、二辺50mmの厚み5mmで長さ100mmのL形の部材は、
St-L-50x50x5 l=100
のように表記。
・平鋼。
フラットバーと称されます。
St-FB-幅×厚と表記。
鉄板(スチールプレート)St-Pl とは異なるので注意。
・溝型鋼
チャンネル鋼と呼ばれたりします。
コの字形で高さ×幅×厚で表記されます。
・リップ溝型鋼
通称Cチャン。
上下が湾曲していないC型の形鋼材。
基本的には高さ×幅×厚で表記。
Cの右側上下端部の長さも規格で決まってます。
線材(棒材)としては丸型と四角型を利用することもあると思います。
気をつけてほしいのは、パイプと棒で形状が区別されていること。
丸パイプは中空、丸棒は身が詰まった鋼材です。
St-○(パイプ)-φ(径)30とSt-●(棒)-φ(径)30は種類が異なります。
丸棒のように使われる材に、異形鉄筋もあります。
鉄筋コンクリートの鉄筋に使われる材料。
サイズは、D**(呼径)のように表記。
他にも様々ありますが、紹介はこれぐらいに。
基本的な種類を覚えたら、それをどう組み合わせれば考えている形にできるか想像してみてください。
よくある例で説明すると、Lアングルを四方まわして溶接すれば天板をのせる枠ができます。
その枠に同じくLアングルの脚を四隅に溶接すれば、机の完成です。
後述しますが図面があればもちろんベストです。
もし出来なければ、口頭や絵を描きながら鉄工所と相談して製作も可能だと思います。
生徒さんのスチールテーブル
建築教室の生徒さんは、天板部分を無垢の木材で自作し、脚部分をスチールで設計しています。
今回は馴染みのある近場の鉄工所で加工をお願いしました。
D16とD10の異形鉄筋を溶接か曲げで加工して三又の脚をつくり、天板受けとなるFBかPLに溶接する設計とデザインで進めています。
溶接か曲げ、FBかPLと表現しているのは、見積もり段階の設計だから。
ポイントはいきなり全てを決めて見積もりや発注をしないこと。
図面をもとに打合せをして、金額を確認してから最終的な材と加工方法を決定します。
加工は加工難易度や工程数に応じて金額が変わります。
図面を確認しながら、工場の人とどのような加工が一番合理的か確認を取りながら決定していきます。
材は工場によって持ち合わせのある材料などで金額が安くなる時もあるので、デザインが大きく変更にならなければ柔軟に変更します。
設計図面をもとに予算の中で材や加工方法を調整していきますが、自分がイメージしているデザインと大きくずれないように、再度立面図や模型などで確認するのをお薦めします。
ちなみに、ある程度大きな模型で検討すると揺れや安定性の確認ができます。
生徒さんの机も1/5スケールの模型を作り、設計した細い足で揺れが大きく出ないか確認してます。
重量の確認もしておきましょう。
各規格材は、長さ(m)若しくは立方(㎥)あたりの重量がネットで調べられます。
設計したものに使われている部材の長さや体積を計算し、単位重量を掛けてあげれば凡その重量がわかります。
想像したよりも重ければ、もう一度デザインや使用部材を検討しましょう。
自分で取り回しのできない家具ほど、使い勝手の悪いものはありませんので。。。
スチールワークを楽しもう
大切なのは、一度で全て決めないこと。
スチールワークは組み合わせが要なので、そのデザインを解決する方法は一つだけとは限りません。
但し加工する工場も前提がなければ提案も出来ないので、図面等何かしらのカタチでデザインの方向性を理解してもらう必要があります。
工場からの提案と自分のデザインイメージをすり合わせて部材と加工を決定し、最終的な金額を確認してから発注しましょう。
プルモデルみたいな組み合わせの世界でデザインができるので、素人でもスチールワークは十分に楽しめます。
記事の最中で紹介した建築家の山本理顕さん(1945~)のスチールワークは美しい組み合わせのものが多いので、図版などで参考にするとデザインセンスも上がると思いますよ。
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