C-5 あなたにとって必要な建築要素【一般解のない世界】

C 誰でもできる建築教室とDIY

建築の計画・デザイン・設計を考えるとき何が自分にとって必要な優先すべき要素なのかを意識しましょう。
世の中に多く流通している一般解が、その人にとっての解答とは限らないから。
また建築という一品生産の世界では、そうした個別解を具現化できる力があります

ハウスメーカーさんのショールームに行ったり、工務店さんの広告間取りを見たりして、いつも似たような設計やデザインだなと思ったことはありませんか。
住宅に限らず、同じような感想を持つことが多いと思います。
何故ならほとんどの建築計画は、平均的な一般解をもとにおこなわれているから。
ですがせっかく一品生産の建築を楽しむのであれば、もっと自分なりの建築を楽しみたいことでしょう。

私は東京と長野県で活動しており、建築設計事務所を運営しています。
学校ではなく仕事で建築を学んだ独学の建築家。
長野県で空き家再生や地域デザインのこともしています。
オフィス機能は両方に用意していますが、住いは長野県。
活動圏内である、塩尻市と松本市で”誰でもできる建築教室”を月2回定期開催しています。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。

自分にとって必要な建築要素を考えることができるように、建築教室の生徒さんを例に以下のトピックで説明します。

・光
・高さ

この記事で紹介している内容を普段から意識しておくと、建築業携わっていない読者さんも自分なりの設計やデザインを考えるときに役立ちます。

建築に限った話ではありませんが、世にあるものの多くは一般解から生み出されてます。
一つの理由は、生産者側にとって同じような解答で量産したほうが効率がよいから。
もう一つの理由は、利用者が自分にとって必要な要素を考える癖がついてないから。
自分なりの考えを持てるようになれば、世の中で溢れている建築ではなかなか満足できないはずです。
何故なら人それぞれの生き方や価値観は千差万別で、建築のように生活に強く影響するものは一般解だけで本来は対応できないからです。

建築には彩をそえる様々な要素がありますが、””は多くの建築家がその取り扱いに挑戦しています。
自分なりの光を考えてほしい、それをよく生徒さんに伝えています。

建築の光に関しては、私自身もある原体験があって特に大切にしています。
まだ建築を始めるずっと前に、メキシコにあるバラガン(1902-1988)の自邸をみたことがあります。
建築家になるなんて想像もしていなかった時です。

バラガン邸のある一室は、板材で出来た開き窓が2組(つまり4枚の扉)上下に並んでいました。
パッと見は、ずいぶんと扱いにくそうな扉窓だなと思いました。
しかしその扉を少し開くと、明るくもない部屋に十字の光が差し込むのです。
案内人のお話だと、バラガンは敬虔なクリスチャンで十字の光を取りれたということです。

今であればその建築で扱う光の様々な要素を感じ取ることができます。
ですが建築のケの字も知らない時代にみた光に感動したこともあり、光は知識や経験を超えた万人が感動できる要素なんだと考えています。

よくこんな間取りがよいと、教室の生徒さん含め建築をしていない人から見せてもらう機会があります。
その殆どに共通しているのが、南側にメインの諸室があり多きな開口部があることです。
南側をメインの諸室が占拠するので、必然的に北側に水廻りの部屋が集ります。
まちろん明るい空間をつくるという意味で間違いはなく、建売住宅等の間取りはその通りになっています。
商品住宅の場合は品質の確保や均質性の関係で、たくさんのバリエーションを用意するわけにもいきません。
自動車のような量産と規格化を意識したものとも考えられます。
なので南面開口の間取りがベターな回答なので、必然流通量が多くなります。
教室の生徒さんは、そのイメージに引っ張られてしまうのです。

しかし建築を仕事にしている立場かからすると、皆さんに少し考えてほしいことがあります。
”皆さんの望む光”はなんですか、ということです。
明るさよりも優先する光があるのであれば、必ず南側に大きな開口をもうける必要は本来ありません。

北に大きな開口を設けると明るさや断熱性能上はマイナスですが、影の動きが少ない光を得られます。
西方浄土の宗教であれば、西側が大きな意味を持ちます。
そうした建築では、西側が大きく外部に対して開けています。
西日の悪影響は、皆さんもご存知だと思います。
そのデメリットを相殺する意思が、西面開口にもあるのです。
ある人にとって東から上る陽光がなによりも重要であれば、たとえ南面が全て壁になろうとも東側の部屋と開口を最優先にすべきです。
東の採光のために南面全てを塞ぐ極端なことは通常しませんが、それが最優先事項ならそうしてもよいのです。

我々建築家も陥る罠ではありますが、流通している多数の回答が正しいわけではありません。
自分にとって本当に必要な光を考えて、間取りを決めて下さい。

生徒さん達にはそのように伝えていますが、やはり南面リビング大開口の刷り込みは強くて、それ以外を想像するのに苦労しています。
生徒さんがそうなったときには、イメージを膨らませるための手助けをしています。

気になった読者さんは、参考にして下さい。

高さ

建築教室の生徒さんが、開店予定の飲食店を設計しています。
そろそろ自主施工の段階。
その生徒さんが厨房と客席を隔てるカウンターの検討を続けているので、それを例にします。
自分なりの高さ、を考えるときの参考になればと。
計画上のセオリーはありますが、それが全てでは無いことを知ってください。

飲食店のカウンター。
その一般的なお決まりごとから説明。
よく言われることは、調理側がお客様を見下ろさない関係でカウンターや席の高さを設定することです。
私も初めて飲食店の設計をするときに、上海修行時代の所長からセオリーとして教えられました。
一般的に調理側は立って作業をし、お客は座って食事をします。
その高さ関係を解消するには、お客側の目線を上げる必要があります。

調理側(厨房)の床と客席の床が同じ高さ関係のときは、ハイカウンターとハイチェアーにすると両者の目線が近くなります。
ハイチェアーを利用しないときは、お客側の床を1.2段上げるなどして調整します。
厨房側の床スラブ(構造躯体)があらかじめ低くなっていると、ハイチェアーや客席床の嵩上げ等をしなくても済みます。

さて、その生徒さんが相談してきたカウンター高さに関する相談は、以下のようなものでした。
深夜食堂のような高さのカウンターにしたい。
私は知らなかったのですが、ドラマのタイトルでした。
生徒さんは、深夜食堂のファンだったのです。

私も実際にドラマを観てみました。
随分と低い椅子とカウンターです。
厨房と客席の床レベルも同じようなので、店主とお客の目線は大きく隔たりがあります。

生徒さんには先ほど説明したセオリーは伝えていたので、このようなカウンターにした時に問題がないのか不安に思ったようです。

そこで生徒さんには、体験してもらうことにしました。
図面と模型だけでは、恐らく実感できないだろうと考えたからです。
同じ程度の高さの机と椅子を並べ、生徒さんがお客として座りました。
私は店主役として厨房側に立ちました。

ここで生徒さんに実感してもらいたかったのは高さではなく両者の”距離”がどれぐらい目線に影響するか。
距離が近いとお客はかなり強く首をそらせなければ、店主と顔を合わせられません。
しかし距離によってはそれほど仰ぎ見なくても、目線を合わせられます。
深夜食堂の厨房側カウンター側面には、広い作業台がありません。
そうすると店主とお客さんの距離がかなり近くなるので、顔を大きく上げる必要があります。

生徒さんが設計を進めているカウンター廻りは、客席カウンターの端から厨房作業台の端まで1000mm程度の距離。
そのシチュエーションで、実際に向き合ってみました。

生徒さん自身それほどの違和感を覚えなかったようなので、そのまま設計を進めてもらいました。
一般的な建築計画では採用しない寸法でしたが、生徒さんの憧れと検証により、自身の案と考えで決定。

注意点を一つ。
他所から引っ張ってきたビジュアルイメージ先行でデザインと設計を進めると、実際完成したときのギャップが大きくなります。
実寸で検討できるなら、そうすることをお薦め。

ちなみに深夜食堂を観ていると、小林薫さん演じる店主はそんなにカウンター際に立ってお話するキャラクターではありません。
割と厨房の奥でひっそりと眺めているか、自身も座ってタバコを吸いながらお客さんと対話したりしています。
店主とお客があのドラマのようなキャラクターや関係性であれば、ドラマ中のカウンター構成でも問題ないだろうなと思えます。
それにしても店主の身長が高いので、一層カウンターが低く感じられますね。

高さを考えるときは、距離にも気をくばってみると感じ方が変わるはずです。
身体的、性格的な特徴も影響するはずです。

自分の中で優先したいものがドラマへの憧れであれば、それもよいと思います。
但し、それをイメージのまま終らせずに検証を忘れないようにしてください。
物事全般に言えることかもしれませんが、絶対の正解はないということ。
自分なりの光のように、自分に合った自分が優先する高さを考えてみてください。

自分なりの建築要素

僅かな例ですが、世の中に溢れている設計やデザインで建築を決める必要はないことを説明しました。
読者の皆さんも、”何が自分にとって必要なのか”を意識して建築をみてみましょう。
そうすれば、同じような製品としての建築ではなく、自分なりの建築を考えたり選んだりできるようになります。

今回紹介したバラガン邸の窓深夜食堂のカウンターの例は、知らないと実感が得られにくいかもしれません。
簡単に調べられる内容なので、文字だけで不明だった読者さんはビジュアルで確認してもらえればと。
見てみれば、こんなデザインや構成にはしないな、と思えるはずです。
それは当然の話しで、その人やドラマなりの建築要素だからです。

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