建築設計事務所といってもそれぞれで、一括りにこうですとは説明が出来ません。
それでも私の経験した事務所での体験や友人・知人の例を知ることで、読者の皆さんが仕事環境を選択したり想像するときの一助にはなれる気がしています。
建築設計事務所ってどんなところ?
職場環境は?
給与事情って?
どんなCADソフトを使って仕事してるの?
大手の建築設計事務所であれば、転職サイトなどで大まかなことは知ることができます。
でも読者の皆さんが知りたいことは、現場を体験した人の生の情報だと思います。
私は上海にあるアトリエ系と称される建築設計事務所で建築のキャリアをスタートしました。
それ以前には建築を学んだことは無く、仕事で建築を覚えた独学系です。
帰国後にライセンスを得て、現在は設計事務所を主宰しています。
東京と長野県で活動しており、塩尻市と松本市で”誰でもできる建築教室”も主宰。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。
この記事では、設計事務所にまつわる幾つかの情報を紹介しています。
・建築設計事務所の種類
・給与事情
・職場環境
・PC環境
私のように学業で建築を修めていない人間は、先輩やインターンなどを通して建築業界のことを知る機会がめったにありません。
様々な建築設計事務所を網羅的に紹介した記事ではありませんが、少なくとも設計事務所勤務を経験した生の情報を知ることができます。
独学系建築家を目指す読者さんは、勤め始めるまえの予備知識として役立ててください。
タイプ別、建築設計事務所
建築設計事務所には、大雑把ですが業界的な区別があります。
もちろん大別されているだけ、事務所のありようは三者三様です。
私が過ごした上海の設計事務所は業界でアトリエ系とよばれる事務所です。
所長は山本理顕さん(こちらも世間ではアトリエ系と称される事務所)のところで修行した人でした。
一人の個性をもった建築家所長が事務所を主宰し、その作品性で建築を実現していきます。
例外的に大所帯の事務所もありますが、多くは一人~十数人の中小(零細?)企業です。
例外もあります。
著名な建築家の隈研吾さんの事務所はアトリエ系と呼ばれますが、三桁規模でかなりの人数が在籍されています。
建築家の***氏設計の、といった情報を読者の皆さんがみることがあれば、その事務所は大抵アトリエ系と呼ばれる事務所。
組織事務所とよばれる企業もあります。
皆さんが会社と聞いて普通に想像する企業体。
従業員規模もアトリエ系と比べて一桁二桁多く、部署ごとに様々な案件をうけもつスタイルで設計やデザイン業務が進みます。
設計案件の種類も多く、国内外のコンペティション、公共の改修案件、保存事業などアトリエ事務所などに比べて様々なケースの仕事に関れる機会があります。
NTTファシリテーズ、佐藤総合計画、日建設計、日本設計、三菱地所設計などなど。
ゼネンコンの設計部。
施工つまり工事業務も行える企業で、設計やデザインを担当する部署があります。
鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店などなど。
組織事務所よりもさらに規模が大きい会社がほとんどです。
組織事務所のような規模の大きな設計もこなしますし、土木規模の設計もおこないます。
他にも住宅だけを専門とするハウスメーカーさんの設計部もあるし、工務店さんも設計部をもっていたりします。
組織事務所やゼネコン系は大抵が職場環境や給与事情などを公開してますし、比較サイトも沢山あります。
気になった読者さんは、検索して調べてみましょう。
この記事では、私が最も身近に過ごしたアトリエ系事務所を前提に紹介していきます。
給与事情
給与のことを心配する人が多い印象なので、私が過ごしたアトリエ系事務所の給与事情や、その他古今東西を紹介。
ブラック企業、そんな言葉が私の修行時代にはない10年以上昔の体験と、それよりもっと昔の先輩達から聞いた話。
そうした時代背景を踏まえて読んで下さい。
現在、自分が仕事を頼む立場を経験して思うことは、当時のことは今できないよな、です。
私の初月給です。
日本円にして約3万円。
かなりの倹約生活を強いられました。
私がいた10年ほど前の中国はまだよい意味でおおらかでした。
一戸を何部屋にも分割して貸し出している、違法な賃貸物件がたくさん。
地方からの出稼ぎ労働者や学生さんなどが利用しています。
彼らも当時の私も、本当にお金がなくて利用するような賃貸物件です。
住いはそんな場所を利用する以外の選択肢しかありません。
今ならシェアハウスといったかっこいい言葉にできますね(笑)
結構楽しい経験もたくさんありました。
それでも場所は上海。
安いとはいえ、家賃もそこそこかかります。
大凡ですが、給与の1/2以上は家賃にかかっていました。
中国に着いたときは日本に戻る交通費もなかったので、当時自分の勢いのよさや恐れ知らずに驚きます。
日本のアトリエ事務所出身の友人に聞いた話。
月給5万円。
日本で5万は、私よりきつかっただろうなと思いました。
当然ひとり暮らしなど不可能で、実家に養ってもらうような状況で仕事続けていました。
こんな話ばかり聞いているとアトリエ事務所なんて、とそっぽを向かれてしまいそうです。
逆の話もしましょう。
槙文彦さん(1928~)の事務所でインターンをした経験のある、同年代の知人から聞いた話。
実績も確かな大御所の建築設計事務所です。
槙さん曰く、
建築をやる人間はよい場所にいき、ものを見て、食べて、経験して、そのためにはお金もある程度は必要。
との考えで、給与はしっかりしていたそうです。
私より二まわりほど上の先輩建築家から聞いたお話。
その方は、大高正人さん(1923~2010)の事務所で実務経験がありました。
景気のよかった頃、ボーナスはお札が短辺方向で余裕に立った、とのこと。
大高事務所設計の広島基町団地は見にいったことがありました。
エリア全体を設計している、そのぐらいの規模で仕事を実現できる大御所の事務所です。
駆け出しのアトリエ事務所でこうした待遇は難しいですが、私や友人が経験したような事務所ばかりではないので誤解のないように。
組織事務所やゼネコンで、私や友人が経験したような給与体系はまず有り得ませんのでご安心下さい。
独立当初の建築家で、私の印象に残っている給与エピソード。
何かの書籍を読んでの記憶です。
磯崎新さん(1931~)が初?(うる覚えで失礼します)所員を雇うときに伝えた言葉。
あるとき払い催促なしで。
今のコンプライアンスがしっかりした状況は当然よい進展です。
ただ、こんな大らかなやり取りで済む時代や言葉がチャーミングにも感じられます。
お金がなくても暮らしやすい時代だったのかなと想像します。
職場環境
私が在籍した上海の設計事務所は、もと国営工場だったビルの1フロアを貸しきっていました。
設立当初は所長を含めてたったの三名でしたから、それは広々と事務所を使えました。
上海の冬時期、広すぎる事務所は建物がまったく温まらず、所長と同僚は手にしもやけをおこしていました。
所長は昔SANAAが仕事場所にしていたような、広々とした事務所に憧れがあったそうです。
建築設計事務所は大型の模型やらモックアップを沢山つくるので、広い事務所は理想的です。
寒さと暑さにはかなり忍耐を強いられましたが、作業スペースでストレスを感じたことはありません。
しかし、日本のアトリエ事務所はかなり狭いスペースで作業をしているとは友人達からよく聞いています。
ですから、基本的に人間同士の距離感が近い中で働くことになります。
特に一人若しくはご夫婦で設計事務所を運営しているような事務所は、住いやマンションの一室を事務所にしていることが多いです。
一人経営の場合は、シェアオフィスやコワーキングスペースを事務所代わりにする建築家も周囲にはいます。
コツとしては、いかにペーパーレス化するかが鍵。
建築設計は図面、カタログ、資料、書籍、、、と多くのかさばる紙媒体が必要になります。
今では電子データで観覧できるものが多い時代です。
紙媒体を減らして、こうした場所を利用するのも選択肢のひとつ。
私は長野県の住いである平屋戸建と運営に関っているもと空き家スペースを事務所にしてます。
東京方面での仕事は、友人の会社のオフィスを間借りして利用。
2022年現在、COVID-19のこともあり事務所に詰めての仕事も見直されています。
しかし、現場での打合せや模型をつくったりなどで事務所仕事が完全にリモートになることは少し考えにくい業界。
PC環境
PCは設計・デザインや製図道具の一つと思って下さい。
大昔なら、どんなペン使っているの?どんなインクや紙で仕上げてるの?みたいな感じです。
PC環境は大きくMac派とWindows派で分かれると思います。
Lunix派はお会いしたことないので、説明ができず。
以前は使用するCAD(図面などを作成するアプリ)で、どちらを使うか別れていた気がします。
上海修行時代の所長のケースです。
ベクターワークス(Vector Works)というCADソフトがMacでしか使えなかった時代に仕事を始めたので、Mac派。
当時職場でWindows派は私一人。
いまCADアプリケーションは、MacとWindows隔てなくどちらでも扱えるソフトが多いので、あまり気にする必要はありません。
構造の個人事務所を運営している友人は、ずっとMacとベクターワークスの組み合わせです。
構造計算で使用するプラグインの関係上、そうしているようです。
私がいまWindowsを使用しているのは、事務所で働くときにWinを購入したから。
事務所への採用が決まったとき、PC持参で支給なしの条件だったので、、、。
同程度のスペックで比較し、Macは価格が高すぎて手が出ませんでした。
当時は建築設計事務所ってそういう働き方なんだぐらいに思ってました。
CADについても少しふれます。
私が上海で建築を始めた10年少し前には、ベクターワークス(Vector Works)はMac、Windows共に扱えました。
なので職場のCADはベクターワークス(Vector Works)でしたが、私だけWindowsでも支障はありませんでした。
オートキャド(AutoCAD)というCADはその頃Windowsでしか使用できませんでした。
必然そっちのデータ管理は全て私一人でするはめになり、面倒くさかったですね。。。
今でもそうですが、中国ではオートキャド(AutoCAD)で図面作成することがほとんど。
私はいまメインCADはオートキャド(AutoCAD)です。
ベクターワークス(Vector Works)は、内装図面やプレゼンテーション図面を作成するには向いてる印象です。
上海の事務所も詳細な建築設計図面を仕上げるよりは、デザインの方向性を決める基本設計とプレゼンの仕事が多く、ベクターワークス(Vector Works)を重宝してました。
独立して実施設計までを仕事にするようになると、多くの人が図面を共有したり同じ図面に手を入れるようになってきました。
そうした同時作業性を意識すると、だんぜんオートキャド(AutoCAD)をお薦めします。
2D作図に使用するだけなら、オートキャドLT(AutoCAD LT)という廉価版もあります。
JW-CADというフリーのCADソフトがあります。
フリーソフトなのにけっこう高性能で、日本の工務店さん関係で使用頻度が高いソフト。
記事内で紹介したCADは、教本とスクールが山ほどあります。
私は教本を見て使用しながら覚えるスタイルでしたが、図面の外注さんと話してるとスクールの短期講座で覚えている人が多い印象です。
短時間で一通り扱えるようになるようです。
いま建築設計の仕事でCADを扱えないのは致命的なので、何かしらは覚えましょう。
CADによって操作方法は様々ですが、共通した操作概念もあります。
一つマスターすれば後に応用も効きます。
CADやBIM・3Dを扱うには、高性能のPCが必要。
Windowsだとワークステーションと呼ばれるタイプ。
私はdellとrenovoを試しましたが、今はrenovoにしています。
試した結果、renovoのほうが不具合や故障の頻度が少なかったから。
CADとAdobeなどDrawing系ソフトだけなら、renovoのwebサイトでパッケージ化されているものを自分でメモリ増設する程度で十分。
BIMや3D等を扱うならブラフィクボード(GPU)の性能を上げたほうが作業性よいです。
QuadroのRTXシリーズならストレスなく動きます。
Macなら最上位機種と思ってもらえればよいでしょうか。
とにかくフルスペックにしましょう。
高いですが、、、。
初めてマシンを検討したとき、同程度の性能でWinとMac比較すると2倍程度金額に差がありました。
ジョブズさん、強気でした。
私はそれ以来ずっとWindows。
建築関係ソフトで性能と価格重視なら、Windowsに軍配が私の印象です。
ただMacは持ち運ぶのに綺麗で薄いし、リセールバリューも魅力的。
予断ですが、モバイルワークスステーションのACアダプタの大きさ想像できますか?
私が使用していたので、35mm×80mm×170mm。
モバイルMacユーザーからしたら、それ”おもし”ですかってレベルかと(笑)
これから(独学系)建築家を目指す人へ
まずはどのタイプの建築設計事務所がよさそうか吟味しましょう。
他の記事で紹介したとおり、全く建築の勉強をしたことがない人が組織事務所やゼネコン設計部にいきなり入社するのは不可能に近いと思います。
その際は学校を出たほうが無難。
給与事情は比較的安定しているほうだと考えてください。
私が身をおいたアトリエ系は激務で安い給与のところが多いですが、飛び込みでもぐり込める可能性が高い事務所はここです。
PCはWinならワークステーション、Macなら最上位機種。
何かしらのCADソフトは扱えるようにしましょう。
記事内で紹介したものは、建築業界での使用頻度が高いです。
教本でも十分ですが、時短で一通り覚えたいひとはスクールの講座へ。
内装・デザイン系であれば、ベクターワークス(Vector Works)。
建築設計全般であれば、オートキャド(Auto CAD)。
工務店さんや比較的規模の小さい施工業者さんであれば、JW-CAD。
私のように一旦事務所へもぐりこめれば仕事をしながら作図方法を覚えることもできますが、それでもソフトを扱えたほうが採用されやすいのは確かです。
図面整理や文字の体裁を整えることなど、設計とは無関係でも何かしらの雑務はこなせるので。
独学系建築家は、まず働くことから全てはじまります。
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