建築物を長く健全な状態に保つには、水を溜めないことが重要。
そのためには水勾配をきちんと計画する必要があります。
DIYやセルフビルド等でも意識してほしいことなので、記事にしておきます。
そもそも水勾配がどんなところで利用され、どんな役に立つのか不明な読者さんも多いでしょう。
日本でよく見かける、三角屋根は想像が付くと思います。
空から落ちてきた雨が屋根にあたり、勾配に添って水は流れ、樋に集約されて建築物の外へと排水されます。
こうした処理が、建築や敷地の様々な場所で施されてます。
その様々な場所が直ぐに分からないと思いますので、水勾配に関して少し勉強してみましょう。
私は東京と長野県で活動しており、建築設計事務所を運営しています。
学校ではなく仕事で建築を学んだ独学の建築家。
長野県で空き家再生や地域デザインのこともしています。
オフィス機能は両方に用意していますが、住いは長野県。
活動圏内である、塩尻市と松本市で”誰でもできる建築教室”を月2回定期開催しています。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。
この記事では以下の内容を紹介。
・色々な水勾配と役割
・配管のDIY
まずは様々な場所に水勾配があることを知ってみましょう。
住いのお手入れやDIYをするときに役立てられることもあります。
実際に取り組んだ自主施工の配管工事を例に、注意点や意識しておくべきことも学びましょう。
デザインのような華やかさはありませんが、水勾配は建築設計の重要な要素です。
計画をきちんとしておかないと、建築物の寿命を縮めます。
近頃はDIYやセルフビルドをされる人も多いです。
水勾配を検討することは地味な作業ですが、自主施工に役立てられることが沢山ありますよ。
水や雨のことを建築教室で生徒さんによく教えている気がします。
建築になじみのない方々には、それだけ普段意識をしていないのだと思います。
勾配って色々なところで必要なんだ、ということを学んでみましょう。
敷地の勾配
敷地の水に関しては別で記事にしました。
屋根から落ちる水と、周辺から流れてくる水があります。
水は高い所から低い所に流れるのはすぐに分かりますね。
家よりも周囲が高いと、水がたまりやすく家にとってよい状態ではありません。
木材を菌が繁殖しやすい状態にすると、腐食が早く進むからです。
敷地に関しても排水側へ土地の勾配をつけてあげたり、窪地をなくしたりしてあげましょう。
屋上の勾配
家の屋根といえばすぐに三角の勾配屋根を思い浮かべると思いますが、ビル屋上の平らな屋根(陸屋根といいます)にも実は勾配があります。
それは1/100や1/75勾配といった緩勾配ですので、屋上に立っても感じることはほとんどできませんが。
そうした緩い勾配でも、もし無ければ水が樋まで導けません。
すると水はけが悪くて、豪雨のときなど屋上がプールになってしまいます。
1/100や1/75の勾配でも、長さがあると高低差はそれなりの数値になります。
例えば20Mの距離で1/100の勾配だとすると、高いところと低いところで200mm(20cm)の差がでます。
それだけの高低差を設計で計画しなければなりません。
緩勾配でも規模によっては材料費に大きく影響してきますので、意識しておくようにしましょう。
床の勾配
土間のレベル出しに関して別の記事で説明しましたが、床にも水勾配が必要。
例えば床を水洗いなどしたときに、排水側へ勾配がないと水がずっと引かないからです。
建築物周辺の屋外通路などの床にも勾配がついてます。
室内側に水が流れても困りますし、水がずっと残ると足元が滑りやすくて危険だからです。
水を貯めたい時は別の話ですが、建築物に極力水がたまらない、流れ込まないようにすることを想像してDIYして下さい。
屋根のなか、壁のなか、床のなか、とにかく水が入らない・残らない工夫をしましょう。
その一番簡単な方法が、水勾配を計画すること。
地味ですが建築設計の仕事で、雨量計算という業務も存在します。
屋根や壁の面積から、その建築物がどれぐらいの量の水を受けるかを計算。
そして、どの程度の樋が何本必要になるのか設計します。
そうしなと水を処理しきれなくて、建築物や建築周囲の通行人に被害を与えます。
水の計画は、とても重要な設計項目。
配管のDIYと勾配
軒樋や配管にも勾配が必要です。
管内の水は流すもの、というイメージは付きやすいでしょう。
何か工事をするとき、無意識でも勾配をつくると思います。
しかし、気をつけてほしいことが一点。
地中の配管はその配管距離が長くなるほど、勾配のために土を深く掘る必要があること。
ですから、出来るだけ最短ルートでの配管を心がけましょう。
実際のDIYを例に説明してみます。
都市圏ではあまりありませんが、汲み取り式のトイレは地方の小さな町で結構あります。
友人がそうした中古物件の配管を水洗トイレにするため、自主施工をしたときの例です。
若い頃の私も、参加して体験した工事。
便器からの配管は敷地を通り、敷地外にある本管(公共下水管)に接続します。
本管の接続は有資格者以外はできませんが、敷地内の配管は友人本人がおこないました。
はじめ私が敷地と建物の状況を確認し、これはすごい手間がかかると思いました。
本管のある道路から便器まで、約20M以上の距離。
また間口の狭い敷地一杯に建物があって、重機が入れません。
重機が入れないということは、全てをハンドツールで作業をしなければなりません。
ここで距離を問題にしているのは、配管というのは流れる方向へ勾配をつける必要があるからです。
住宅の下水配管であれば、φ75かφ100の管で1/50~1/100程度の勾配が必要になります。
友人のケースでは1/50勾配をとりました。
20Mの距離で1/50の勾配をとり道路まで引こうとすると、最終地点で40センチ以上掘り下げないといけません。
これを重機無し、手掘りで20M以上やるのは大変です。
結果、道路附近で50センチ以上深堀することになりました。
自主施工で水洗トイレに変更したいときは、公共下水管と便器までの距離に注意して下さい。
敷地にも注意を払う必要があります。
これから物件をみつけ、自分で配管をしようとする読者さんにアドバイス。
その敷地が以前に川ではない、若しくは川沿いではないことを確認しましょう。
なぜかというと、さきほどの敷地はむかし川が通っていました。
ある時代に川の流れを変えて、宅地になったそうです。
そうした敷地だと、地面を掘り進めていくと大きな川石がごろごろ出てきます。
単純に土を掘っていくだけでは済まず、石をわざわざ取り除く必要があります。
川の石ってとても硬く、電動工具程度では砕けないんですね。
友人の配管は、本当に本当に大変な自主施工となりました。
水勾配に関する細かい内容は、いくつか別の記事で紹介しています。
今回知ってほしかったのは、普段気付いていないような場所にも水勾配が計画されていること。
つまり建築において勾配が必要なところを、自主施工でも意識してもらいたくて記事にしました。
デザインしてDIYして楽しかったでも、もちろん楽しいイベントです。
しかし建築の寿命を延ばすことを意識することも、長期的なコスパをよくするうえで大切なこと。
水勾配を意識して、ワンランク上のDIYをしてみましょう。
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