建築は建築物単体ではく、人や風景つまり環境もあわせて楽しめる対象。
建築に興味を持っている人には、旅はお薦めです。
建築雑誌や本を読んでいると、旅の話をされている建築家も多いと思います。
それぐらい建築と旅は密接な関係があります。
それらの記事を読みながら、読者の皆さんのなかには以下のような不明点が浮かぶことが多いのではないでしょうか。
建築家は旅を通してその場所をどのように観察しているのか、それと建築がどう関係しているのか。
私は上海にあるアトリエ系と称される建築設計事務所で建築のキャリアをスタートしました。
それ以前には建築を学んだことは無く、仕事で建築を覚えた独学系です。
帰国後にライセンスを得て、現在は設計事務所を主宰しています。
東京と長野県で活動しており、塩尻市と松本市で”誰でもできる建築教室”も主宰。
それら建築などに関係する情報を、ブログで記事にしています。
この記事では、私が実際に旅したことのある海外を例に説明。
読者の皆さんと目線を合わせるために、私が建築を学びはじめる前にした旅のことを記事にしてます。
建築の専門教育を受けていない人間が、旅を通してどんなことを感じるのか。
建築を学んだ現在、ふりかえってどんなことが役立っているのか。
この記事が、専門家でなくても建築と旅を結びつけて考えられる一助になればと思います。
”建築を理解するためには”、といった大層な理由で旅をする必要はありません。
多かれ少なかれ、実は皆さんも建築と結びつけながら周囲を眺めてます。
それが建築と関係していると認識してるか、否かの違いがあるだけです。
この旅の内容は、まだ私が20代で建築と知り合う前の情報です。
10年以上前の話しで、最新の旅行情報ではありません。
また海外旅行は不測の事態も多いので、安全には十分注意してくださいね。
南アフリカ共和国
私の人生初の海外が南アフリカ共和国。
田舎でのんびり育ったせいかガイコクは不安一杯。
訪れたのは、友人がたまたま住んでいたからという簡単な理由。
なんの知識もないまま向いました。
空港から友人宅に向かう道に黒人が歩いている姿を見て、ああアフリカに来ているんだなと実感したものです。
ただし、これは私の思い違いでした。
友人の説明。
白人も沢山住んでいるが道は危険だからと歩かない。
もうアパルトヘイトの政策はない頃でしたが、まだそうした分離が生活の中でみられた頃でした。
コミュニティのあり方は、建築を考える上で重要な要素です。
なにか分断があれば、それを解決する施設や地域を設計するのか、劇薬にならないように少し距離を縮めていけるような設計するのか、などを考える必要があります。
当時の南アフリカは、車とゲーテッドエリアで分離された社会のように感じられました。
安全には考慮しながらその分断をなくす、徒歩圏域のデザインを今なら何か考えられそうです。
バスアナウンスが英語で当時理解できず、ヨハネスブルグの街中に入ってしまった経験があります。
入ってしまったと表現したのは、治安が極端に悪いから出来るだけ行くなと言われていたから。
確かにビル群が並んでいる中心地区のわりには人も少なく、道端で火を燃やしている人達もいて不思議な都市風景でした。
南アフリカの都市部のイメージは、南ア出身ニール・ブロムカンプ監督のチャッピーや第9区を見るとよく分かります。
建築家は、都市のような大きな単位でも観察をします。
集って住むことで人間は進化してきました。
集住を考える上で、都市ほど様々なメリットとデメリットが垣間見える場所はありません。
世界中には様々な都市があります。
その場所はどうしてそんな都市になったのか。
結果どんな良いところと悪いところが生まれたのか。
そんな目で街を歩いてみると、いつもと異なった風景が見えてくることでしょう。
環境で一番驚いたのが、太陽が北に面して昇ること。
考えれば当たり前なのですが、北半球人の常識が普通ではないのですね。
それと日差しが強いので、色がとても映えます。
花や着色された壁面が曇らず鮮やかな印象を与えてくれました。
光は建築設計に大きな影響をもたらします。
この光ならこんな窓を設けたいな、その光を特定の植物に当てたいな、などその土地ならではの光の利用を考えてみるのも面白いです。
旅をしたら、その土地での環境も併せて観察して下さい。
自分の住いを計画するとき、なにかDIYでつくるとき、趣味で建築を見に行くとき等の考えをきっと広げてくれます。
南アフリカでは空港でスリの被害と、警官に賄賂を要求されそうになりました。
未遂でしたが、皆さんも気をつけて旅しましょう。
メキシコ
メリダという街に滞在したときに、ピラミッドを見に行きました。
お墓ではなく神事に利用されていたピラミッド。
自社仏閣と教会が宗教建築の当たり前として育った私には、珍しいことばかり。
まず量感がすごい。
宗教建築だと水平か垂直の広がりや光の操作がたいていありますが、その遺跡にはそれがほとんど有りませんでした。
ピラミッドの垂直方向の広がりは殆ど感じられなくて、塊感だけが感じられます。
その上に神殿がちょこんと載っています。
険しい山の上に建てるのは宗教建築で共通してみられる方法の1つですが、山自体を人工物で構築しているようです。
今写真を見返してみてもユニークな感想をもちます。
しかもメインの神殿よりも、はるかに労力と手間が費やされています。
彫刻や装飾というのは多くの宗教建築と共通でした。
幾何学的な文様が石のパーツで表現されてます。
メキシコというと乾燥した砂漠地帯をイメージすると思いますが、密林もあります。
そのピラミッドのある遺跡も密林のなかにぽつんとあります。
高所に登ってその一帯を眺めると、密林から抜け出たようにピラミッドの頂部がみえます。
密林の中でこうした存在感を見せたくて建造されたのかな、と想像しました。
日本でも寺社仏閣と宗教建築を目にする機会も多いでしょう。
同じビルディングタイプでも比較をすると、普段何気なく見ている建築物の特徴が分かってきます。
ちょっとした余談。
奈良で寺社仏閣をみてまわると、鹿がいる場所がありますね。
少し観光に利用されている感もありますが、、、。
さて、私がメキシコで行った遺跡にもある動物が闊歩しています。
それはイグアナです。
イグアナ好きの建築好きは、是非。
ディエゴ・リベラとフリーダ・カーロのアトリエにも、美術的興味があり行きました。
二人の作家のアトリエ兼住居です。
普段皆さんが生活している専用住居とはタイプの違う建築です。
それらも自分の住居と比較してみると、その設計の意図が浮き彫りになってきます。
ここが我が家と違うなと思えたら、その理由を自分なりに考えてみるのです。
それが正しいのか正しくないのかは、問題ではありません。
違いの理由を考えられることが大事で、それは建築を自分なりに見ている証拠となります。
メキシコでの注意点は、衛生面でしょうか。
一度だけ足元の傷口がひどく化膿してパンパンに腫れている、サンダル履きの旅行者と出会いました。
路上の衛生環境には注意してください。
キューバ
メキシコを旅しているときに、陸路でユカタン半島まで移動してカリブ海を渡りました。
キューバは初めて訪れた社会主義経済国。
まだカストロ議長が生きていた時代です。
空港で両替をしようとしたのですが、係りの女性がくわえタバコで対応してくれました。
格好良かったですね。
出国手続きのときに係員が「キューバはどうだった?」と聞いてきました。
戯れなのですが、「すばらしかったよ」と言うまでパスポートを返してくれません(笑)。
とてもチャーミングな人達が多かったのがキューバ。
当時の私のような貧乏学生がキューバを歩くには、現地の経済圏に入り込む必要があります。
その時キューバでは現地ペソと兌換ペソの二種類の通貨が流通していました。
調べたところ2020年に兌換ペソは廃止されたみたいですね。
兌換ペソは観光地を旅行する外国人が使用する通貨で、米ドルと同じレートです。
なので当時の私が使用するには高すぎました。
一方で現地ペソは記憶が曖昧ですが1兌換ペソ=27現地ペソ位だったと思います。
なので現地ペソでやり取りできる場所で生活しないと、直ぐにすっからかんになります。
適法だったの分かりませんでしたが、町中に兌換ペソを現地ペソにしてくれる場所がありましたので困りませんでしたが。
配給所もはじめて経験しました。
食物がすごい安かったので買おうと思ったのですが、人民が優先だからと買えませんでした。
その代りタバコはいいよとのことで、キューバの配給タバコと葉巻にはずいぶんお世話になりました。
キューバといえば音楽が有名ですが、観光地で売っているCDは高くて買えません。
そんな話を現地の人にしていると、友人がPCを持っているので遊びに行こうと言われました。
要するに好きな曲をいくらでもCDに焼いてあげるから、買ってくれないかという提案でした。
曲数を考えたら価格は数十分の一だと思います。
気候は暖かく、現地の人はよく海沿いや広場で会話してます。
外で集会もよくします。
町民一人一人が町に責任をもち、町を楽しんでいる印象。
そして年配の町人達は、カストロ議長の演説をTVで真剣に見ていました。
亡くなる数年前のことでだいぶ高齢だったと思いますが、ぴんとした姿勢で長時間しゃべり続けているバイタリティある人でした。
社会主義国という体制が影響していたのか、生活の違いに多く驚きました。
生活が大きく異なるときに、周囲の建築、広場、街をよく観察してみましょう。
同じ分類の場所でも、自分の国とは異なる使われ方をしているはずです。
その違いが、設計やデザインの違いに現れています。
キューバでは、注意喚起したいようなことは一度も起こりませんでした。
個人的には、過度な保険が必要なく旅行できる国かなと思います。
中国
上海の建築設計事務所で、修行をするきっかけを作ってくれた旅。
学生の最終学年時に、半年ほどかけて中国大陸の縁(国境に近いエリア)を廻りました。
そのとき敦煌(町の名前です)は行きたいなと考えていました。
理由は何故か小さい頃に見た敦煌という映画が記憶に残っており、原作の井上靖(1907-1991)著の小説も成人したときに楽しめたから。
敦厚からさらに西へ西へと進むと、中国でいう新疆ウイグル地区へと入ります。
中国は周辺を各地廻りましたが、その辺りの話にします。
砂漠地帯というのをこの時初めて経験しました。
砂と岩の風景がずっと続きます。
オアシスも初めて目にしました。
同じ色の眺めが変わらず流れるなかで、たまに緑と水の小さな地帯が現れます。
今思い出すと、何もない場所に現れる建築や町のような存在感でした。
新疆の大きな都市に列車が到着する前に、砂漠の真っ只中にあるような駅も少しありました。
誰が降りるのかと思いましたが、それでも数人下車して砂漠の中を歩いていくのですね。
車窓からみた限りは町はありません。
人の住まい方や住む場所は不思議でいっぱい。
さらにカザフスタン国境のほうへ向かって、小さな村々に寄りました。
その時にきれな風景だなと思えたのが、ロバ?(のように見えました)が綿花を荷馬車に積んで無舗装の道を歩く風景。
何故あんなに強い印象をもったのか分かりません。
わりと田舎の育ちですが、当然見たことない異質な、それでも落ち着いた気持ちになれる不思議できれいな日常でした。
設計やデザインの仕事をしていると、今まで経験した美しい景色を建築で表現したいなと思うときがあります。
空間や場所をつくる仕事なので、景色がデザインソースになることが多いのです。
旅をすると、知らない景色と沢山出会えます。
なにかDIYで内装を考えるときも、自分が見た美しい風景をコンセプトにしても良いと思います。
素材感、色味、植栽などそれらの組み合わせを揃えてみるだけでも、設えが上手くいきます。
中国は半年以上かけて周っていたので、様々ことが沢山ありました。
盗難、病気、怪我など一通り経験しました。
長期におよぶ旅の時は、旅行保険の加入はしたほうがよいと思います。
旅に出よう!今すぐに。
旅と建築がどのように関っているか、紹介してみました。
・コミュニティのあり方が、都市・街・移動手段などの違いに現れる。
・自国の身近な建築と旅先の同じタイプの建築を比べると、その特徴がよく見える。
・生活の違いに注目すると、その違いが場所の違いとしても見て取れる。
・景色と建築は両者ともに空間や場所なので、見てきた風景をデザインソースにできる。
共通しているのは、意識して・考えて見るかどうか。
それが大事です。
考えたことが事実や歴史と異なっていてもよいです。
違いを認識したとき、身の回りの建築や環境がいつもと異なった様相で現れます。
それを楽しめるのが、旅です。
さあ、まずは旅に出ましょう。
とはいえ、勝手の知らない国々を巡るときは十分注意してください。
バックパッカーの人達に多い印象ですが、旅行保険に入ってない旅行者ともけっこう会いました。
病気や怪我のとき本当に大変なので、旅行保険には必ず加入しましょう。
私の頃は海外旅行保険が付帯したアメックスが1年間無料で作れたのですが、いまは無いようですね。
最近のものだとEPOSカードが年会費無料で、海外旅行保険が付帯されてます。
繰り返しになりますが、”建築を理解するために”と意気込んで旅をしないように(笑)
違いを観察してその特徴を考える癖がつくと、自然に建築を見る目も変化していくものです。
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